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大阪高等裁判所 平成4年(う)867号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人武村二三夫、同氏家都子、同森博行、同高階叙男、同空野佳弘、同丸山哲男連名作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官足達襄作成の答弁書に記載のとおりであるからこれらを引用する。

論旨は、外国人登録法一一条一項(昭和六二年法律第一○二号による改正前のもの。以下同じ。)、一八条一項は、憲法一三条、一四条、三一条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、国際人権規約B規約という)二条、七条、二六条に違反し無効であり、仮にそうでないとしても、少なくとも戦前から引続き本邦に居住する在日朝鮮人及びその子孫に適用される限度において、外国人登録法の前記条項は、前記憲法各条に違反し無効であるのに、本件にこれを適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、と言うのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

第一  控訴趣意第一点について

一  所論の要旨は、

外国人登録法一一条一項の定める確認申請義務は、外国人のプライバシーを制約し、外国人に過大な義務と負担を課するものであって、憲法一三条の保障する生命、自由及び幸福追及に対する権利を制約するものであるところ、この確認申請義務は、日本国民にはなく外国人にのみ課せられる義務である。このように国籍の有無によって異なった処遇をする制度は、その目的が正当かつ重要な公共の利益を実現するためのものであり、目的達成のための手段として、必要性と合理性があり、制度を設けない場合の弊害発生の危険が、確実な根拠のある合理的な判断に基づいて予見され、制度が当該外国人に与える権利の制約と制度を設けないことによる弊害が均衡を失しないものであり、かつ、より制約の少ない代替手段がない場合に限って許容され、これらの事情が認められない場合は、憲法一四条が禁止する社会的身分による差別として許されない。しかるに、外国人登録法は、もっぱら在日朝鮮人を一律に治安の対象として監視し取り締まることを目的とする治安立法であり、確認申請制度は、その目的のための手段であるから、正当な目的を持つ制度とは言えない。外国人登録法一一条一項、一八条一項は、この点においてすでに、憲法一三条及び一四条に違反し無効と言うべきである。

確認申請制度の目的は、登録事項の正確性の維持確保にあるというが、外国人登録法には、登録事項に変更が生じた場合の変更登録申請制度があり、これによってその目的を達することができ、また、仮に登録事項に誤りがあったり、変更登録申請の懈怠があっても、外国人行政を遂行する過程で自ずから是正されていくものであり、確認申請制度がなければ、登録事項の正確性を維持確保することができず、外国人の公正な管理に支障をきたす、とする原判決の判断は、単なる観念の想定に過ぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは言えないのであって、確認申請制度は、その目的達成のための手段としても、必要性がない。また仮に確認申請制度が必要であるとしても、その申請懈怠に対し、行政罰では足りず、刑事罰が必要であるとする根拠はない。さらに、現在では、各自治体において、各在留外国人の確認申請時期を把握しており、期限内に申請を怠っているものも容易に把握することができるのであって、申請時期の到来する外国人に事前に通知し、あるいは、申請を怠っているものに督促するなどして、過失による申請懈怠を防止し、申請懈怠による弊害をすみやかに除去することができるのであるから、過失によるものまで犯罪として、刑罰によって威嚇する制度を設ける必要性は全く認められない。

したがって、外国人に日本国民とは異なった処遇をする外国人登録法の確認申請制度は、これを合憲とするに足る合理的な理由が認められず、憲法一四条の禁止する差別に当たる、と言うのである。

二  当裁判所の判断

所論は、外国人登録法は、もっぱら在日朝鮮人を一律に治安の対象として監視し取り締まることを目的とする治安立法であり、確認申請制度は、その目的のための手段であるから、外国人登録法一一条一項、一八条一項は、制度の目的においてすでに、憲法一三条及び一四条に違反する、と言うが、外国人登録法は、本邦に在留する外国人の居住関係及び身分関係を明確にし、在留外国人の公正な管理に資するため、同法二条の要件を充足する全ての外国人に適用されるべきものとして制定されたものであり、同法の各規定を精査しても、右目的を外れて、不当な目的が隠されていると見るべき規定は見当たらず、同法の執行状況からも、同法は、国際慣習法及び条約によって適用を除外される場合を除き、全ての在留外国人に等しく適用され、在日朝鮮人についてだけ、異なった取扱いがなされている形跡は見られない。これを同法の確認申請制度についてみても同様であって、この点の所論は理由がない。

そして、国家がその主権の及ぶものを正確に把握することは、国家としての責務を果たす上での基礎をなすものであり、国家の構成員たる国民とそれ以外の外国人との間には、国家との法的関係において基本的な地位に相違があることは、主権国家の観念を認めることに伴う必然の論理である。国家の構成員たる国民について、戸籍法による戸籍制度、住民基本台帳法による住民登録制度によって、その身分関係及び居住関係を把握管理し、それ以外の外国人については、外国人登録法による外国人登録制度を設けてその居住関係及び身分関係を把握管理すること自体にはなんら問題はない。外国人登録法の定める諸制度が、多少なりとも、対象となる外国人の自由を制約するものであり、戸籍法及び住民基本台帳法の適用を受ける国民とは異なった処遇をしていることは明らかであるが、憲法一三条も個人の自由に対する国家の制約を全面的に禁止しているものではなく、また憲法一四条が全ての別異処遇を差別として禁じているものでないことは、各規定の趣旨に照して明らかであり、所論も敢えてこれを否定しないところである。外国人登録法の定める制度が、外国人に対し、国民には課せられていない義務を課し、外国人なるが故に、国民とは異なった処遇をしても、それが外国人登録法の前記目的を達成するため、国民と外国人との基本的な地位の相違に伴う必要かつ合理的な処遇の差異と認められる限り、憲法一三条、一四条に違反するものではない。所論が別異処遇の憲法適合性の要件として主張するところも、畢竟、右の必要性、合理性の判断に集約されるものと考えられるので、所論の主張も参酌しつつ、以下検討する。

近時、国際交流が盛んになり、我が国においても在留外国人が増加の一途をたどり、その身分関係等も多様化している現在、在留外国人の公正な管理は、諸般の行政を適正に進める上で、ますます重要性を増しており、そのためには、在留外国人の身分関係及び居住関係を常に正確に把握しておくことが不可欠の大前提であるところ、外国人登録法一一条の定める確認申請制度は、登録事項が正確に登録され、登録後の変更が正しく反映され、登録原票の記載が事実に合致しているか否かを確認する制度であり、外国人登録法の所期の目的を達成する上において、重要にして正当な目的を有する制度である。

所論は、登録事項の正確性の維持は、変更登録申請制度によってその目的を達することができ、また、仮に登録事項に誤りがあったり、変更登録申請の懈怠があっても、外国人行政を遂行する過程で自ずから是正されていくものであり、そのような目的のために確認申請制度を設ける必要性はない、と言うが、所論のように、登録事項に変更が生じた場合の多くが、変更登録申請制度によって登録原票に反映され、登録の誤りや変更登録の申請懈怠による登録原票の記載と事実の不一致が、外国人行政を遂行する過程で是正されることも少なからずあり得るとはいえ、極めて多数かつ多様な在留外国人の登録事項の正確性を維持確保するためには、それだけでは不十分であることもまた見やすい道理である。

所論は、確認申請制度がなければ、登録事項の正確性を維持確保することができず、外国人の公正な管理に支障をきたす、とする原判決の判断は、確実な根拠に基づく合理的な判断とは言えず、単なる観念の想定に過ぎない、と言うが、確認申請制度がなければ、変更登録申請の懈怠等によって、登録原票と事実との不一致が広がり、外国人行政の遂行に支障をきたすなど、在留外国人の公正な管理の妨げとなる事態に至る危険があることは、ことがらの性質上、合理的な判断によって予見されるものであり、根拠のない観念の想定であるとの非難は当たらない。

外国人登録法一一条一項が対象となる外国人に課している義務の内容を見ても、それが手段としての相当性を逸脱しているものとは考えられない。確認申請制度は、外国人登録法の所期の目的達成のため、必要かつ合理的な制度と言うべきである。

また、所論は、仮に確認申請制度が必要であるとしても、その申請懈怠に対し刑事罰が必要であるとする根拠はなく、特に過失によるものについては、行政的な措置により、申請懈怠を防止し、あるいは、申請懈怠による幣害をすみやかに除去することができるのであるから、過失によるものまで犯罪としなければならない必要性は認められない、と言う。しかし、確認申請制度が必要かつ合理的な制度であると認められる以上、その実効性を担保するためどのような措置を取るべきか、制裁制度を設けるとして、行政罰にすべきか刑事罰にすべきかは、基本的には、立法府が、諸般の事情を考量して合理的な裁量によって決すべきことがらであり、立法府の裁量が明らかに合理的範囲を逸脱していると認められない限り、立法府の判断が尊重されるべきところ、在留外国人の公正な管理の重要性、その目的達成の見地から見た確認申請制度の重要性等に鑑みれば、外国人登録法が、確認申請を懈怠した者に対し、刑事罰を科していることが、立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱しているとは考えられず、懈怠に対して刑事罰を科していることの故をもって、確認申請制度が、手段としての相当性を欠き、合理性を失うものとは言えない。

所論は、いわゆる内外国人の基本的地位の相違論は否定さるべきである旨縷縷論じるが、所論を検討しても、現在の主権国家を基本とする国際社会を前提とする限り所論は採用することができない。外国人登録法一一条一項、一八条一項一号は、国民と外国人との基本的な地位の相違に基づく必要かつ合理的な制度であり、憲法一三条、一四条に違反するものではない。したがって、外国人に日本国民とは異なった処遇をする外国人登録法の確認申請制度は、憲法一三条に違反し、同法一四条の禁止する差別に当たる、とする所論は理由がなく、採用できない。

第二  控訴趣意第二点について

一  所論の要旨は、

外国人登録法には、過失によって同法一一条一項の確認申請義務を懈怠したものを処罰する旨の明文の規定はなく、同法一八条一項一号の構成要件の解釈から過失犯処罰の趣旨を読み取ることはできないから、被告人の、過失による確認申請義務違反に同条項を適用した原判決は、まずこの点で法令の解釈適用を誤っている。

そもそも、外国人登録法一一条一項違反の行為には、強度の反社会性はなく、「居住関係、身分関係を明らかにする」という同じ行政目的を有する戸籍法や住民基本台帳法が、外国人登録法一一条一項のような確認申請義務を課していない上、諸種の届出義務違反に対しても、秩序罰たる過科の制裁に止め、刑罰を科していないこと、また、刑罰によって威嚇するまでもなく、所管の地方公共団体が、申請義務者に対して催告、督促することによって、十分その行政目的を達することができることなどに照せば、外国人登録法一八条一項一号は、刑罰謙抑主義の原則に違反していると言うべきである。また、外国人登録法一八条一項、二項は、同条一項一号の罪に対し、「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金」若しくは「懲役又は禁錮及び罰金を併科することができる」としているが、これは他の犯罪に対する刑罰と比較しても、また、それ自体の違法性の程度に照らしても、著しく重罰であって、明らかに罪と罰との均衡を失している。これらのことは、外国人登録法一八条一項一号が過失犯をも処罰する趣旨とするなら尚更である。

したがって、外国人登録法一八条一項一号は、憲法三一条の要求する罪刑法定主義、刑罰謙抑主義の原則、罪刑均衡の原則に違反し、無効と言うべきであるから、これを適用して処断した原判決は憲法三一条ひいては外国人登録法一八条一項一号の解釈適用を誤っている、と言うのである。

二  当裁判所の判断

まず、刑法三八条一項但書にいう「法律ニ特別ノ規定アル場合」とは、明文のある場合に限らず、当該構成要件の解釈上過失犯をも処罰する趣旨であると解される場合を含むものと解される。

そこで、外国人登録法一八条一項一号が、「同法一一条一項の規定に違反して同項による申請をしないで同項に規定する期間を超えて本邦に在留する者」と規定し、いわゆる明文をもって過失犯の処罰を規定していないことは所論のとおりであるが、「同法一一条一項の規定に違反して同項による申請をしない」こと自体は、故意、過失のいずれによっても実現され得る不作為であり、同法一一条一項は、その文言から、対象者に積極的な協力を求め、怠りなく申請すべき旨の注意義務を課する趣旨であることを容易に読み取ることができるから、同法一八条一項一号の文理解釈から、同条項の処罰対象には過失によるものを含むと解することは十分可能である。そして、課せられている確認申請義務の義務内容に照せば、ことがらの性質上、その違反は過失によって犯されるものが大半であると考えられ、したがって、過失犯を処罰の対象から除外すれば、確認申請制度の実効性を担保するために制裁制度を設けた意義の大半は失われる結果となることが明らかであり、さらに、外国人登録法一八条一項が、多様な違反をまとめて一箇条で規定しているところ、その法定刑の下限が罰金刑の寡額とされていることをも併せ考慮すれば、同法一八条一項一号は、過失犯をも処罰する趣旨であると解するのが、実質的にも合理的である。したがって、同条項には、過失犯の処罰は含まれず、罪刑法定主義に違反するとの所論は理由がなく、採用できない。

また所論は、外国人登録法一一条一項違反の行為には、それ自体に強度の反社会性はなく、戸籍法や住民基本台帳法が、諸種の届出義務違反に対して刑罰を科しておらず、外国人登録法上の確認申請義務違反についても、適宜の行政上の措置をとることによって、刑罰を科すまでもなく、十分その目的を達することができるのであるから、確認申請義務違反に対し刑事罰を科すことは憲法三一条の要請する刑罰謙抑主義の原則に違反し、かつ、外国人登録法が確認申請義務違反に対して定めている刑罰は、行為の違法性に照らして著しく重罰であって、明らかに罪刑の均衡を失しており、この点からも、外国人登録法一八条一項一号は憲法三一条に違反している、と言うのであるが、外国人登録法が、その対象の相違から、戸籍法、住民基本台帳法にはない確認申請制度を設けていることが、必要かつ合理的な別異処遇として是認され、その実効性を担保するため、確認申請義務違反に対する制裁として、刑事罰を採用したことが、立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱しているとは言えないことは先に述べたとおりであり、外国人登録法一八条一項が規定する義務違反には多様なものがあり、その中で、過失による確認申請義務違反は、一般的に見て犯情の軽い部類に属するものと認められるが、同項の規定する法定刑には相当の幅があり、犯情の軽い罪にも十分対処し得る刑罰が規定されているから、犯情の比較的重いものと、犯情の比較的軽いものとをまとめて、同一の条文で、幅のある同一の法定刑で対処していることの当否の点を含めて、いまだ立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとは言えない。したがって、外国人登録法一八条一項一号が、罪刑の均衡を失し、憲法三一条に違反するとの所論も理由がない。

第三  控訴趣意第三点について

一  所論の要旨は、

国際人権規約B規約二条、二六条は、合法的な目的達成のため、合理的かつ客観的基準による場合のほか、一切の差別を禁じているところ、外国人登録法の定める確認申請制度は、在留外国人に対し、その生活実体と関係なく、国籍の有無という基準のみによって一律に五年ごとに登録事項の確認申請を求めるものであって、日本国民に適用される戸籍制度、住民登録制度との対比において、とうてい合理的かつ客観的な基準に基づく別異処遇とは言えず、少なくとも、居住関係、身分関係の明らかな在日朝鮮人等の長期在留外国人にまで確認申請義務を課するのは、国際人権規約B規約二八条の人権委員会(規約人権委員会)が、一九九三年一一月四日に採択した一般的意見において、外国人登録法が、永住的外国人に対しても、外国人登録証明書の常時携帯義務を課するのは規約に違反する、としたことに照しても、国際人権規約B規約二条、二六条に違反することは明らかである。

また、外国人登録法の真の目的は、在日朝鮮人の治安管理にあることは明らかであり、確認申請制度は、外国人登録法上の他の諸制度とあいまって、在日朝鮮人に対する社会的差別を温存、助長しており、定住外国人である在日朝鮮人に確認申請義務を課するのは、畢竟、在日朝鮮人に対し、品位を傷つける取扱いをするものにほかならず、国際人権規約B規約七条に違反し許されない、と言うのである。

二  当裁判所の判断

所論は、外国人登録法の確認申請義務は、在留外国人に対し、その生活実体と関係なく、国籍の有無という基準のみによって一律に五年ごとに登録事項の確認申請を求めるものであって、日本国民に適用される戸籍制度、住民登録制度との対比において、合理的かつ客観的な基準に基づく別異処遇とは言えず、少なくとも、居住関係、身分関係の明らかな定住外国人にまで確認申請義務を課するのは、国際人権規約B規約二条、二六条に違反する、と言うのであるが、外国人登録法の確認申請制度が、在留外国人の公正な管理という正当かつ重要な行政を遂行する上において必要かつ合理的な制度であり、国民を対象とする戸籍法、住民基本台帳法に、外国人登録法の確認申請制度のような制度がないからといって、合理的根拠のない差別とは言えないことは、すでに述べたとおりである。本来国籍の有無と関係のない事項について、国籍の有無のみによって異なる取扱いをするのは、合理的な根拠に基づかない差別として、憲法上も国際人権規約上も許されないことは当然であるが、外国人登録法は、在留外国人について、その公正な管理のために必要な諸制度を定めるものであり、確認申請制度もその一環として、必要性、合理性が認められること前述のとおりであるから、その適用が日本国籍の無いことを前提としているのは当然のことであって、確認申請制度は、所論の言う合理的かつ客観的基準による別異処遇として、国際人権規約B規約二条、二六条が禁止する差別には当たらないものと解すべきであり、そのことは対象が定住外国人であるからといって、結論に差異を生ずるものではない。

なお、所論は、外国人登録証の常時携帯義務についての規約人権委員会の意見を援用して、少なくとも定住外国人について、外国人登録法の確認申請制度を適用するのは、国際人権規約B規約二条、二六条に違反する、と言うが、登録事項の確認申請制度と登録証の常時携帯制度とでは、外国人登録制度において果たすべき役割、求められている義務の内容が異なり、同一に論じられるものではないから、所論の規約人権委員会の意見は、定住外国人について確認申請制度を適用することの同規約適合性を否定する論拠となるものとは考えられない。

また、所論は、外国人登録法の真の目的は、在日朝鮮人の治安管理にあり、確認申請制度は、外国人登録法上の他の諸制度とあいまって、在日朝鮮人に対する社会的差別を温存、助長しており、定住外国人である在日朝鮮人に確認申請義務を課するのは、在日朝鮮人に対し、品位を傷つける取扱いをするものであり、国際人権規約B規約七条に違反する、と言う。しかし、外国人登録法の真の目的が、在日朝鮮人の治安管理にあるとする所論が採り得ないものであることはすでに述べたとおりである。なお、我が国社会の一部に、在日朝鮮人等に対する不当な社会的蔑視や差別が残存していることは否定できないが、それは、誤った歴史認識や偏見に基づくものであり、国家、国民が相協力して正すよう努めるべきことがらではあるが、外国人登録法の定める各種制度の内容に照せば、全ての在留外国人に等しく適用される外国人登録法がこれを作出し、温存、助長しているとは言えず、したがって、外国人登録法一一条の規定する確認申請義務の内容及び同法一八条一項一号がその義務違反に刑罰を科していることが、在日朝鮮人に対し、品位を傷つける取扱いをするものとは言えない。よって、在日朝鮮人に確認申請制度を適用するのは国際人権規約B規約七条に違反するとの所論は理由がなく、採用できない。

第四  控訴趣意第四点について

一  所論の要旨は、

戦前から引続き本邦に居住する在日朝鮮人が本邦に居住するに至った歴史的事情並びにその人達及びその子孫の居住関係、身分関係が日本国民と同程度に明瞭であることを考えれば、この人達に外国人登録法の苛酷な規制を受けさせるのは正義に反し憲法に違反する。外国人登録法の確認申請制度は、少なくとも、戦前から引続き本邦に居住する在日朝鮮人及びその子孫に適用される限度において、憲法一三条、一四条、三一条に違反する、と言うのである。

二  当裁判所の判断

なるほど、戦前から引続き本邦に居住する在日朝鮮人及びその子孫の多くは、定住性も高く、我が国の地域社会とも深く密着した生活を送っており、居住関係、身分関係が日本国民と同程度に明確なものも少なくなく、わが国に定住するに至った原因にも、明治以後の、特に第二次世界大戦に近接する時代の歴史的事情が介在しているものが多いことは、おおむね所論のとおりである。そして、一定の条件を満たす定住外国人を、それ以外の外国人と区別して、これと異なった処遇をすることも、その区別の基準が客観的かつ合理的で、制度の内容も合理的かつ相当なものであれば、それも許されないわけではないと考えられる。しかし、一般的に定住外国人についてはもとより、前記のような歴史的事情が介在しているとはいえ、個々的には、所論の在日朝鮮人についても事情は様々であるから、一定の定住外国人をそれ以外の外国人と区別して処遇するとしても、その区別の基準をどこにおくか、処遇の内容をどのようなものにするかなどは、広範な調査に基づき、国内の政治、経済、社会の諸事情のほか、諸外国との外交関係等をも慎重に考量して決すべきものであり、立法府の合目的的判断による合理的な裁量に待つべきものである。

現行の外国人登録法のもとにおいて、その確認申請制度を戦前から引き続き本邦に居住する在日朝鮮人及びその子孫に適用することが国際人権規約B規約二条、二六条に違反するものでないことは、すでに述べたとおりであり、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」(昭和四○年一二月一八日条約二八号)第五条において、戦前から引き続きわが国に居住すること等により、わが国に「永住することを許可されている大韓民国国民は、出入国及び居住を含むすべての事項に関し、この協定で特に定める場合を除くほか、すべての外国人に同様に適用される日本国の法令の適用を受けることが確認される。」とされていることなどを参酌すると、所論指摘の歴史的事情や定住性等を考慮しても、所論の定住在日朝鮮人に確認申請義務を課することが、いわゆる適用違憲になり、許されないものとは考えられない。したがって、この点の所論も理由がない。

よって刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用について同法一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。

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